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ロッパに行くと、年寄りが公園にず一っと座っていて、あんなかわいそうなことはない。日本の年寄りは家の中で大切にされているから幸せだ」というものです。北欧の福祉は素晴らしいという人でも、年寄りがポツンと一人で公園にいるのを見ると孤独だなあと思うと言いました。それについては、どうですか。
訓覇 北欧は日光が少ないから、ただ日向ぼっこしているだけですよ(笑)。散歩もよくしますから、途中で休むとしたら公園のベンチですし。年寄りは雑踏に交じって若い人たちと一緒に活動するほどの気力はないけれど、一歩おいて外にいて自分が中に入りたいときだけ入る、話し掛けるということです。一人ポツンといるようだけれど、社会とのコンタクトは、自分の条件の中でとっているんですよ。
「自殺神話」についても、1950年当時アイゼンハワーが言ったのは実はハンガリーの間違いだったんで、今も自殺率の高さはハンガリーが1位で、スウェーデンは16番目ですから。OECDの国々を対象に、老人がどのくらい孤独を感じているかというのを聞いた調査では、北欧の国々では感じているという数字は数%にすぎません。高いのは、イタリアとか家族の絆が強いと思われている国なんで。
樋口 それは面白い結果ですね。しかし、本当にこの神話は日本に蔓延しました。スウェーデン・モデルはいいけれど…というものです。こういった神話が生まれたのは50年代から70年代にか てで、当時まだ日本の高齢化率は6%前後だったのが、今では14%を超え、公園にも年寄りが数多く見られるようになりました。
考えてみますと、日本は一人当たりの公園面積が狭いからそう公園にいるわけにもいかなかったんで、それに代わる役割を果たしてきたのが縁側や道端だったんじゃないでしょうか。私の小さいときにも、私が学校へ行くときも帰るときも縁側でものも言わず、じっと外に向かって並んで座っている年寄り夫婦がいましたが、あれも人の通りを見、ときには近所の人たちと話をする場だったんですね。日本の「公園」は、縁側によって結ばれた道端だったんじゃないか。日本にも「公園でポツン」というお年寄りはいないわけではなかったといえるわけです。

 

「国外逃亡神話」は本当か?

樋口 スウエーデンの税率の高さを聞いて、だから所得の高い個人は逃げだすとか、テニスのボルグも逃げだしたじゃないかなどと言う人がいます。スウェーデンに実際に行ってこの目で見てきた人の多くは、若干の疑問を含みながらも、その福祉水準の高さに驚きますし、あのぐらいしてくれるなら、税金をとられてもしょうがないという感想をもちますが、ちょっと行ってみただけの人、偏見をもって行った人は、これまでもち続けてきたこれまた神話があるんですね。訓顧さんは、この第四の神話「国外逃亡神話」については、どうお答えになりますか。
訓覇 それは、つまり税金還元がいつされるかという問題ですね。スウェーデンの福祉がなぜ「胎児から墓場まで」といわれるかといいますと、妊娠したときから子供に関するお金が一切がからないからです。若い人が、子供を作るまでは税金の低いほかの国のほうがよく見えたとしても、パートナーを作って子供を作った時点で、集中的に税金が還元されるのがわかります。金持ちでも貧乏でも、子供には一切お金がかかりません。だから、経済的心配もなく家庭が作れ、仕事ができ、やり直しもきく。自分が働けなくなっても、子育てもできるし、自分も生活できる。外から見ると税金が何%としか見えず、このあたりのことが知られていないのだと思います。ボルグも今は戻ってきて家庭を持っています。(笑)。
樋口 逃亡神話ばかりがあって、“帰国実話”が知られていないんですね。
私、外国に行って一般の家庭におじゃまする機会があると、つい外国人の強みでそのご家庭の家計とか聞いてしまうんです。これは外国を知る上で大きな興味があるからなんですが、スウェーデンの中流家庭の家計というのは、具体的にどうなっていますか。実際に、それだけの率の税金を払っている国の庶民の家計を知りたいんですが。
訓覇 家賃は、都心ですと3DKか4DKで10万円くらい。所得の少ない人には住宅手当金が出ますから、金額だけで考えてもらうと困るんですが。それに食費を加えると、純粋な生活費は夫婦2人と子供1〜2人で20万円ぐらいでしょう。あと自動車やサマーハウスの経費を加えるともっと増えますが、生活費としてはそれぐらいです。
子供の教育費は教科書代も何も一切がかりませんが、保育料金は所得に応じてストックホルムなどの大都市で約2000クローネ(約3万5000円)ぐらい

 

 

 

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